空に唄う

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 京都滞在期間中は毎日京都新聞を読んでいたんだけど、日曜日の書評欄に「空に唄う」が掲載されていた。白岩 玄と聴いてもピンと来なかったけど、デビュー作「野ブタ。をプロデュース」を書いた人と言えば分かるだろう。そう、自分自身その本もドラマも見てはいなかったけど、それがきっかけで興味を持った。新聞の書評欄は、その本のポテンシャルを十分すぎるほど表現してくれる。京都新聞に掲載されていて、実は京都出身の作家と言うこともあり、四条のジュンク堂で思わず手にした。


「私って、死んじゃったんですか?――新米の坊さん・海生の目の前に突然現れた、死んだはずの女子大生。誰にも見えない彼女と海生は同居することになるが!? 『野ブタ。をプロデュース』から4年! 待望の文藝賞受賞第一作。」

 内容設定からして、切ないファンタジー的な内容が連想される。しかし、本を読み進めていくに連れ、普通の、本当に普通の日常風景の中に現れた小さな非日常な話しだと気付く。設定的に、エンディングはイメージできるのだが、「日常風景」というキーワードがそのイメージを覆す。決して、感動的なエンディングがある訳じゃない。人が死に、そしてその後、残された人達がどのように日常を送っていくのか。大げさな表現やアクションなどが皆無なだけに、ある意味のリアリティを生じさせている。この本を読み終えた後、抱く想いは人それぞれだろう。しかし、多くの人が死生観について改めて考え直すような作品であることは間違いないだろう。

 あくまでファンタジー、でも、日常でそれを包み隠す。あまり読んだことのある系統の作品ではなく、正直、全く寝られなくなってしまった。ハードカバーの小説を読んだのはいつ以来ぶりか分からないが、こうやって自分を見つめ直すきっかけになったことは何事にも変えられない価値だったと言えるだろう。