元々この連載が毎日新聞で始まったときに、連載がある日だけは毎日新聞を買おうと思っていたけど、初回から新聞を買い損なってしまい結局単行本になるまで一切どういう話しなのかも知らず、この本を読みました。
や、所謂「紙の本」は読んでません、iPadのアプリ、そう電子書籍で読みました。電子書籍で読む小説は2冊目か。や、1冊目は読み切ってないから、もしもし下北沢が初めて読み切ったアプリ本ですな。あ、最初に書いちゃっておくけど、これアプリとしては最低です、超使いづらい。でもね、実は使いやすいアプリは本をダメにしちゃうかもしれない。逆のパターンもあるけど、このお話しを読むためにはこのイマイチなアプリがちょうど良かったんじゃないかな。
Amazonとかに掲載されている物語の概要はこんな感じ。
『お父さんが知らない女と心中してしまった。残された私は、自分の人生をやり直すため、下北沢に部屋を借り、近所の小さなビストロで働き始めた。ところが、ようやく日常生活を取り戻しつつあった頃、突然お母さんが私の部屋に転がり込んできて、奇妙な共同生活が始まる。
決して埋めることのできない喪失感、孤独を抱える母娘を下北沢の街がやさしく包み込む――。
どこにでもある、でも、たったひとつの人と街の愛しい物語。』
「へっ? 下北沢である必要がなんであるんだろ?」ちょっと斜め目線の考えなんだけど、それは本当に正直に思った最初の思い。
下北沢で10年ちかく働き、5年くらい住んだ街。自分ではこの街のことを十分すぎるほど分かっているつもりだった。物語の舞台になる、もう無くなってしまった桜の木があるお店。南口商店街中にコーヒーの匂いを漂わせる、あのお店。この話に出てくるお店も通りの名前も自分は知っているし、十分分かっているつもりだった。いや、この本を読むまで下北沢という街のことは、十分分かっているつもりだった。この本を読んだら、その「本当はこの街のことは何も分かっていない」ということを再認識させられた気がした。街のことは分かっていても、人のことはわかりやしない。そんな本当にいろいろな人たちをひっくるめて、下北沢という街は今日も時間が流れていく。
物語の流れは、想像以上にゆっくりだ。でも、そのゆっくりとした時間の流れがこの物語には必要だし、実際に連載は毎日新聞で1年間続いたことを考えると、読み手にとっても読み心地の良い時間だったに違いない。ああ、それを自分は一晩で読んでしまって、なんというもったいない事をしてしまったのだろう、、、。でも、自分はせっかちだから毎週なんて読んでられないだろうなぁ。
35歳で男の自分には、20代の女のコの思考なんて全然分からないし、この物語の主人公の考え方や発する言葉も正直理解できない、と言うよりは、単純によく分からない。でも、下北沢にはそういう人がいても全然おかしくない街だなと言うことは理解できた、いやいや思い出した。本当にこの街に多色々な人たちがいる。わかりやすいから、ミュージシャンと舞台役者あと売れ初めのお笑い芸人、そんな風に下北沢に居る人たちを指したりするけど、よく考えたらそいつらは圧倒的に少数派で、そいつらを見続けたり逆に全く無関心でこの街で暮らしている人たちが本当は大多数なんだ。そう考えると、普段街ですれ違っているだけの女のコの日常をのぞき込んでしまった気分で、ちょっと小っ恥ずかしい気がするなぁ。
正直、あの桜の木が切られてしまったのは本当にショックだったし、本当になんでそんなことになっちゃうんだろうとか考えたりしました。今、あの桜が生えていた場所は無意味なコインパーキングになってしまい、あの何とも言えない趣のある佇まいの建物は、7階建ての最近っぽいモダンでシャープなコンクリートの建物が建ってしまいました。この物語の中では、あそこにあったお店が火を落としちゃうところまでが描かれていますが、そこにいた人たちはそれからも生き続けていき、新しい物語が生まれていきます。そして、現実にその場に建てられたコンクリートの建物に、たくさんに人たちが移ってきて、今後何十年かけて下北沢という街の一部として物語を創り上げていく要素になるわけです。
実は、年末に6年間続けてきた自分のお店を閉店することになり、もう下北沢なんてどうでもいいやと思い始めていた所でした。頭の中では分かっているのですが、自分が始めたお店が無くなってしまうことは本当に耐えられない想いがあります。この街は今までだって新陳代謝を繰り返してきたわけだし、現実をぶち壊してまでお店を続けられないことは当然なんです。この本を読んで、ちょっと前に進められる気がしました。そして、ちょっとだけ下北沢という街を愛おしく感じられました。
下北沢に住んだことがない、いや、下北沢に来たことがない人がこの話を読んだらどう感じるんだろ? たぶん、下北沢と言う街に来たくなることは間違いないと思います。いや、来てみて間違いないと思います。もう、物語の舞台になったそのお店だけは無くなっちゃったけど、それ以外のお店は全部残ってるよ。
下北沢に住んで居る人には、是非読んでもらいたい。そして、下北沢に来たことがない人もこの本を読んで下北沢に遊びに来てもらいたいです。そうだ、これか「下北沢ってどんな街?」と聞かれたら、この本を薦めてみよう。舞台としての下北沢は絶対に気になるはずだからね。さてと、オレは大洗の水族館に行く日程でも調整しようかな。